詩稿「花をかついで歌をうたわう」

八木重吉
 愛着の詩篇よ、愛着の詩篇よ、わたしはよい秋 
 にであった、そしておまへ等がするするとうま 
 れた、
   

 雨をみてると
 おどりたくなる
 花をかついで歌をうたわう

   

はつあきの野

 はつあきの野をあるいてゆくと
 なつかしげな ぬくとさである
 あるときは
 よろこびが暑さと()
 やがてまたそのあつさがふととけいだして
 こころよいかなしさとなる
 こんなにして
 けふのぬくとさと遊びながらいつまでもゆく

   

うつくしき わたし

 うつくしくなると
 いったん人はとほのいてみえる
 もっとうつくしくなると
 かがやいてちかづいてくる

   

ひかり

 ひかりを呼ぼう
 ひかりをつつむものをほころばそう
 こぼれてくるひかりをうけよう

   

 死をおもわぬときは
 うすらねむい
 ややさめてはまた死をおもふ
 やがてまた ものうくなる

   

 つまらないからつったってゐたら
 雲が
 すこしうごいたので
 わたしも
 くらんと あたまをうごかした

   

 雲が
 うごいたので
 うごきたくなった

   

ばった

 ()()() よ
 一本の (かや)をたてにとって身をかくした
 その安心をわたしにわけてくれないか

   

 空よ
 おまへのうつくしさを
 すこし くれないか

   

花とあそぶ

 おみなへし
 おみなへし
 水のようなうたをうたわうか
 おまへのそばであそびたくなった

   

 にこにこ
 遊びたくなった
 ひとつ 花をください
 もって あそぶんです

   

 秋になって
 けしきが だんだん うつくしくなってきた
 ふざけたり
 遊んだりしたくなった

   

 夜になると
 ひとりでも あそびたくなってくる
 星もあそんで ひかってるようだ
 こほろぎも遊んで ないてるようだ
 夜も黒くあそんでるらしい

   

松葉

 まつばが こぼれてゐた
 この松葉をもっていってならべよう

   

 電気が消えた
 お手手ないない
 お手手ないないって
 もも子がむちゆうで両手をふりだした
 死んぢまうようなきがしたんだ
 手が無いとおもったんだ

   

ふざけようか

 桃子よ
 また
 ふざけようか

   

松ばやし

 松ばやしのなかにしやがんで
 うつくしいきもちになってだまってゐた

   

ちさい流れ

 つまらないから
 こくん こくんといふ
 ちさい流れのそばにしやがんでみてゐた

   

 月に照らされると
 うたを歌ひたくなる
 月のひかりにうたれて
 花びらがこぼれてゆくようなうたがわく

   

きもちのいい日だ
山をみながら遊びたくなった

   

心よ

 むずかしい心よ
 ひようびようと風がうなってゐる
 もしも
 おまへの命をほしいといふ者があったら
 心よ
 おまへは死ぬか

   

もえよう

 もえよう
 あの人はひかってるといわれよう
 できなければ死のう

   

あるとき

 くるしとはいわぬ
 このくるしさを
 朗らかにながしいだそう

   

雨がふる

 雨がふる
 わたしのおもひもととのふてゆく
 ひとつの力をほしいとおもふ
 雨がふるように死のうとおもふ

   

ある時

 べつに
 することもないし
 悲しいこともなかったので
 ひとりでにこにこしてゐた

   

あそび

 そっと
 涙をながしたり
 そのなみだをふいた
 にこにこわらったり
 なかに花でも一本もってあそびたくなった