詩稿「ひびいてゆこう」

八木重吉
   

こども

 こどもが ふたり
 畑でぴたんぱたんころげてる
 素っぱだかで(しり)がどろだらけだ
 とっ組んだときなんか
 ()()()がふたつくっついているようだ

   

ある夜

 こほろぎが ないてる
 妻よ
 かほを あげなさい
 しばらく はなしをしよう

   

秋がくる日

 秋がくる日
 頭の毛をばらばらにふりみだした女の童が
 あっちへいったり
 こっちへいったり かけずってゐる
 今日の日とむかひあってはゐれぬきもちだ

   

ねがひ

 人と人のあひだを
 美しくみよう
 わたしと人とのあひだをうつくしくみよう
 疲れてはならない

   

 うつくしいこころがある
 恐れなきこkろがある
 とかす力である
 そだつるふしぎである

   

愛のことば

 愛のことばを言わう
 ふかくしてみにくきは
 あさくしてうつくしきにおよばない
 しだいに深くみちびいていただこう
 まづひとつの愛のことばを言ひきってみよう

   

愛の家

 まことに 愛にあふれた家は
 のきばから 火をふいているようだ

   

 くもはうかんでゐる
 雲は白くうかんでゐる
 こころは気高(けだか)くなる

   

秋の朝

 はじめての秋の朝をあるきだすと
 壺のそばにゐるようなきがする

   

もも子が おどる

 もも子が おどる
 おどる
 うれしくって おどる
 この花をあげようか

   

足をなめる

 陽二が
 じぶんの足をなめてる
 みてゐると
 花が咲くのをみてるようだ
 すこしあごをつきだして
 いつのまにか
 わたしもなめたくなってゐた

   

あさがほが さいてた

 あさがほが 咲いてて
 とってやらうか
 この水色の花のほしいものにはひとつとってあげます

   

ひるがほ

 ひるがほが
 白くさいてる
 このひるがほを
 とってゆこう

   

ある日

 これでは
 いけないんだとおもふ、
 うつむいてあるく さびしさ

   

ねがひ

 じぶんから
 もりあがってゆこう
 他人(たにん)はどうだったかまわないとしよう

   

へへののもへじ

 あつい日だ
 こどもをつれてきたらば
 道のうへへ
 石っころで へへののもへじとかけといふ
 ひとすぢのこころとなり
 へへののもへじとかいた

   

うつむいて歩るく

 わたしがいけないんだとおもひながら
 うつむいてあるくさびしさ