詩稿「うたを歌わう」

八木重吉
   

覚えがき

 これ等の詩篇は殆どすべてわが熱く愛するものな 
 り、これ等はわづか二日にしてなれるものなり、 
 みづからにもふしぎとするまで愛らしき詩なり、 
 われは、ふたたび曙にたつおもひあり、命なかり 
 しものも命あるべくおもわれきたれるなり、
   

百日紅

 さるすべりをみたらば
 たくさんに
 いい花がさきみだれてゐた
 (あか)くて
 そっとわたしの肩をたたくようなきがした

   

 あさ
 そぼふる雨をやぶり
 みんみん(ぜみ)がなきだした
 ぬくげに
 おさなげに こころがおどる

   

 雨が ぼしやぼしやふってる
 にごり水が ぐんぐん ながれる
 いい あんばいだとおもふ
 のどのとこまで なんだかおしあげてくる

   

茄子もくわう

 茄子もくわう
 わたしに 喰われたら
 いいきもちだらう
 くってやらう

   

お湯へはいらう

 お湯へはいらう
 すこし
 ひとりことでもいひながらはいってやらう
 からだも お湯も うれしからう

   

菓子をくれないか

 菓子をくれないか
 くひたくなった
 わらひながら喰わう

ひちりき

 ひちりきは いいね
 もっと吹かないか
 うれしくなった
 そこへいこうか

   

いいことをしよう

 いいことをしよう
 わたしだけ
 家来にならう
 みんな王さまにしよう

   

ある日

 雨はやんだ
 しかし 空はくもってゐる
 白いような
 すこし ひかるような雲がいっぱいだ
 ものを考へてはならないとおもった

   

せんべい

 せんべいを
 そんなに喰ふぢやありません
 お客さまにだすのが なくなるでせう

   

笛をふかないか

 あかんぼが
 笛をくわえてるよ
 ぴいと吹かないか
 わたしに かしてみるかい

   

あかんぼが哭いてるよ

 あかんぼが 哭いてるよ
 だいてやりな
 わたしがいこうか

なかよくしよう

 なかよくしよう
 花がちる
 花がさいた
 きれいな そら
 みんな そら

   

はなしをしよう

 はなしをしよう
 ほめてくださるよ
 いい方がほめてくださるよ
 うれしがって はなしをしよう

   

あるとき

 ある時
 するするっと
 汽車が 雨のなかをわけもなくいってしまった
 みてゐたらば
 もっていかれるようなきがした

鞠をつくのか

 まりを つくのか
 ちよっと 借さないか
 いっしよに つこうか

   

泣こうかな

 泣こうかな
 ひとつ 泣いてやらうか
 なかないでもいいのかな

   

 雨がふる
 いいきもちだ
 すこし 死にたいようなきもするが
 雨はすきだからもっとふれとおもふ

   

お茶の木

 お茶の木のはっぱをかんでたら
 こどもが
 わたしにもくれといふ
 こんなもの——といひながらも
 やっぱりとってやったらば
 にこにこと かんでゐた

   

蟲を殺そう

 蟲をころそう
 ()かないで殺そう
 ころしたっていいとおもへる
 蟲がつぶされる手もとはひかってる