十二夜
又の名「お好きなもの」
シェークスピヤ 著
坪内逍遥 譯
公爵の侍士ワ゛ランタイン先きに、男裝したるヰ゛ーオーラ出る。 シザーリオーと假名 してゐる。
公爵と侍士キューリオーと他の侍者役ら出る。
シザーリオー、わしは侍者一同一隅へ退 る。
一同入る。
或國の水軍の將校アントーニオーとヰ゛ーオーラの孿生 の兄セバスチヤンと出る。 セバスチヤンはアントーニオーの救助で溺死をまぬかれたのである。
セバスチヤンの跡を追って入る。
公爵オーシーノー、ヰ゛ーオーラのシザーリオー、キューリオー及び其他出る。 樂人やゝ後れて出る。
キューリオー、道外方(フェステ)をつれて出る。
樂人が音樂を奏しはじめる。
來をれ、最期 よ、來をるなら、來をれ、
杉の柩に埋めてくりゃれ。
絶えよ、此息、絶えるなら、絶えろ、
むごいあの兒に殺されまする。
縫うてたもれよ白かたびらを、
縫ひ目〜に水松 を挿して。
又とあるまい此思ひ死。
花を撒くなよ、うつくし花を、
わしの柩にゃ只黒布を。
だれも死骸に物いうてくれな。
骨を埋める其際とても。
やくに立たない溜息、吐息
させぬ其ため、深切者の
知らぬ處へ埋めてたもれ!
道外方入る。
シザーリオー、キューリオー及び侍者役、樂人ら退く。
入る。
ヰ゛ーオーラのシザーリオー出る。つゞいて道外方(フェステ)小太鼓を手に持って出る。
もう一箇下さいと謎を掛ける。
道外方入る。
トービーとアンドルーと出る。
よせばよいのにフランス語で話しかける。
と即座に同じ語で答へられたので、フランス語の種切れとなったアンドルーは據 ろなく
と月並の挨拶をして、ぽかんとする。
いとも〜いみじき淑女の君、天よ、よき香りを此君にオーリヰ゛ヤとマライヤと出る。ヰ゛ーオーラはそれを迎へて、叮嚀 に會釋して
さ、手を。(と握手を求める)。トービー、アンドルー及びマライヤ入る。
返辭がないので往かうとする。
と改めて會釋して往きかける。
左右に分れて入る。
セバスチヤンとアントーニオーと出る。
左右へ別れて入る。
セバスチヤンと道外方 (フェステ)と出る。
アンドルーを先きに、少しおくれてトービーとフェビヤンと出る。
とだしぬけに撲 つ。
と腰の短劍を抜いてアンドルーを睨んで、身構へする。
道外方入る。
と二人鬪ふ。
此うちオーリヰ゛ヤ姫出る。
シザーリオーさん、無禮な、無法な振舞を、彼等が、理由なく、 あなたに對してしましたのを、どうか、腹を立てないで、靜かに、 賢明に諒恕して下さい。どうぞ、トービー、アンドルー、フェービヤン入る。
此間、セバスチヤンは何が何やら分りかねて、呆れ果てゝゐたが
姫先きにセバスチヤンを促して入る。
道外方 が、マルヲ゛ーリオーに頼まれた姫への書状を手に持って、 フェビヤンと共に出る。
公爵オーシーノーとヰ゛ーオーラとキューリオーと貴族役の者ら出る。
と金貨を一枚與へる。
もう一枚下さいといふ謎を掛ける。
もう一枚くれろと謎を掛ける。
道外方入る。
アントーニオーを引立てゝ警察の役員ら出る。
オーリヰ゛ヤ姫と侍者役ら出る。
と行きかける。
おゝ、ようこそ、教父さん!僧出る。
アンドルー急ぎ足で出る。
あそこへ怪我をしたトービーが例の如く生醉であるのを、介抱しつゝ道外方出る。
道外方、フェービヤン、トービー、アンドルーら入る。
とセバスチヤン出る。皆々之を見て、ヰ゛ーオーラと見比べ、呆れ果てる。
自分が氣が道外方マルヲ゛ーリオーの手紙を持って出る。フェビヤンつゞく。
「あゝ、御姫君よ」……
「あゝ、御姫君よ、あまりの御侮辱なり、やがては世人も知らん。 自分を暗室中に押込たまひ、醉ひどれの叔父御をして監視せしめたまひたれど、 自分は御前同様の健全なる五感を備へをれり。
況 んやあの如き服裝をすべく御勸誘ありし御書簡を所有しをるに於てをや。 今に身の明りを立つると共に御面目を失はせ申すべし。 自分の事を如何さまにも思し召したまへ。自分は此際聊 か家來たるの本文を度外視して、専 ら此身の損害に就いて愁訴す。狂人扱ひにされたるマルヲ゛ーリオー。」
(公爵に)御前、若し先刻からの事情をとくと御斟酌下さいまして、 わたくしを妹とも又人の妻ともなる者とおぼしめしまして、 早晩それに對する式を擧げることに御賛成下さいますやうなら、それは、 此フェビヤン入る。
此時フェビヤンが顏面憔忰したマルヲ゛ーリオーをつれて出る。 汚い暗室から出て來たばかりなので、藁屑などがマルヲ゛ーリオーの衣服に附着してゐる。
マルヲ゛ーリオー憤然として入る。
道外方だけ殘りて皆入る。
おらがなァ、ちッちゃい小僧でゐた頃にゃ、
はれ風が吹く、雨が降る。
阿呆や惡戯 も笑ひで濟んだ、
雨の降るのは常ぢゃもの。
おらが大人になったる頃にゃ、
はれ、風が吹く、雨が降る。
悪黨 や盗賊 は何處でも泊めぬ、
雨の降るのは常ぢゃもの。
おらが嚊 衆を貰うた頃にゃ、
はれ、風が吹く、雨が降る。
駄法螺ばかりぢゃ世は送られず、
雨の降るのは常ぢゃもの。
おらが此世におさらば言うて、
はれ、風が吹く、雨が降る。
眠 る間際まで飲抜け仲間、
雨の降るのは常ぢゃもの。
此世開けてなァ久しいけれど、
はれ、風が吹く、雨が降る。
それもだんない、劇 は果 ねた、
御機嫌取るのはおらが役。
歌ひつゝ踊りつゝ入る。