花子 　オオ苧’　スト ■　グ ソ し　ビ■ば 　ト畠葛冨｝邑旨は為享場へ出て来た。 竈 オ　テ　ル　ピ　■　ソ 　広い間一ばいに朝日が差し込んでゐる。この目Φ童里→ｓといふ ’いたく 一』ｏ８ひだ のは、躰昆或る宮豪の作つ快ｈな漱吻曜物“価〉ベソつひ此間まで聖 心派の尼寺になつてゐた。冒■ぎミ０９匿μｇあφＢ冒巨の娘子供を集 サクレ’　中ロオル Ｅ０竈 めて窪Ｓψ−Ω８言の尼達が、此間で讃葵歌を歌はせてゐたのであら う０ 　巣の内の雛が親鳥の来るのを見附けたやうに、一列に并んだ娘達が 桃色の唇を開いて歌ったことであらう。 　その賑やかな声は今は問えない。 　併しそれと違った賑やかさが此間を領してゐる。或る別様の生活が 此間を領してゐる。それは声の無い生活である。声は無いが、強烈な、 錬凋せられた、頭動してゐる、別様の生活である。 　幾つかの台の上に、幾つかの蓉土の塊がある。又外の台の上にはご つごつした大理石の塊もある。日光の下に種々の植物が華さくやうに、 同時に幾つかの為事を始めて、かばるム＼気の向いたのに手を着ける 習慣になつてゐるので、幾つかの作品が後れたり先だつたりして、此 人の手の下に、自然のやうに生畏して行くのである。此人は恐るべき 形の記億を有してゐる。その作品は手を勵さない間にも生長してゐる のである。此人は恐るべき意志の集中カを有してゐる。為事に掛かつ た刹那に、もう数時間前から為事をし続けてゐるやうな態度になる二 とが蝸来るのである。 広々とした額。中程に節のあるやうな鼻。白いたつぷりある髯が腿の 周囲に震がつてゐる。 戸をこつく叩く音がする。 「」 　底に力の鶯つた、老人らしくない声が広間の空気を波立たせた。 　戸を開けて腎州つて来たのは、窃芯教徒かと思はれるやうな、か概猷 の髪の温い、三十代の痩せた男である。 　お約東の旨邑ｏ目◎客昌Φ目竃ゆ冒を違れて来たと云った。 　ロダンは這入つて来た男を見た時も、その詞を聞いた時も、別に顔 色をも助かさなかつた。 カンポヂヤ 　いつか冒昌犀豪ｏ臣の曾畏が巴里に滞在してゐた頃、それが連れ て来てゐた踊予を見て、繊く畏い手足の、しなやかな運動に、人を迷 はせるやうな、一種の趣のあるのを感じたことがある。その時急いで チ７サソ 取つた−蓼μ易が今も残つてゐるのである。さういふ風に、どの人 種にも美しい処がある。それを見附ける人の目次第で美しい処がある と信じてゐるロダンは、此聞から花子といふ日本の女が奏ユひ脹に 出てゐるといふことを聞いて、それを連れて来て見せてくれるやうに、 伝を求めて、花子を買って出してゐる男に頼んで置いたのである。 アソブレサ，オ 　今来たのはその呉行師である。ＨＢ肩緊→げである。 「こつちへ痘入らせて下さい」とロダンは云った。椅子をも指さない のは、その暇がないからばかりではない。 「通訳をする人が一しよに来てゐますが。」機嫌を伺ふやうに責ふの である。 「それは誰ですか。フヲンス人ですか。」 ，ソスチ宇昌ウ　メ＾ト■オル ｔ 「いゝえ。日本人です。■、旨答岸鼻弔蕩富言で為事をしてゐる学生で すが、先生の所へ呼ばれたといふことを花子に聞いて、望んで通訳を しに来たのです。」 「宜しい。一しよに這入らせて下さい。」 　直ぐに男女の日本人が遣入つて来た。二人共際立つて小さく見える。 跡に附いて這入つて戸を締める呉行師も、大きい男ではないのに、二 人の日本人はその男の耳までしかないのである。 　ロダンの目は注意して物を視るとき、内管に深く刻んだやうな段が 出来る。この時その敏が出来た。視線は学生から花子に移つて・そこ に暫く留まつてゐる。 　学生は挨拶をして、ロダンの出した、腿の一本一本浮いてゐる右の ラ　〆ナイイド ル ペ　ゼ　’ ル バソツロオル 予を握つた。■ゆＵ竃邑守や冒冒げ８や冒忠昌＄膏を作つた 手を握つた。そして名刺入から、医学士久保囲某と書いた名刺を出し てわたした。 　ロダンは名刺を一寸見て云った。「ランスチチュウ・。ハストヨオル で為事をしてゐるのですか。」 「さうです。」 「もう畏くゐますか。」 「三箇月になります。」 　ア！’ヴ　ウピアソト，７イ’’ 「トくＳ−く◎葛巨①目→雪く邑｝−小〜」 　学生はばつと思った。ロダンといふ人が口癖のやうに云ふ詞だと、 兼て噂に聞いてゐた、その簡単な詞が今自分に対して発せられたので ある。 　ウイ ボウクウ　モツシ’ウル 「◎具牙ゆ■８呂一夢易｛９二」と答へると同時に、久保田はこれか ら生涯勉強しようと、神明に書つたやうな心持がしたのである。 　久保田は花子を紹介した。ロダンは花予の小きい、締まつた体を、 無恰好に緒つた高島田の順から、白足袋に千代田草履を穿いた足の尖 まで、一目に領略するやうな見方をして、小さい巌畳な手を擾つた。 　久保田の心は一種の差恥を覚えることを禁じ得なかつた。日本の女 としてロダンに紹介するには、も少し立派な女が欲しかつたと思った のである。 　さう思ったのも無理は無い。花子は別品ではないのである。日本の 女優だと云って、或時忽然ヨオロツバの都会に現れた。そんな女ｏが 日本にゐたかどうだか、日本人には知つたものはない。久保田も勿論 知らないのである。しかもそれが別品でない。お三どんのやうだと云 つては、可哀さうであらう。格別荒い為事をしたことはないと見えて、 手足なんぞは荒れてゐない。併し十七の娘殖なのに、小間使としても 少し受け取りにくい姿である。一言で評すれば、子守あがり位にしか、 値踏が出来兼ねるのである。 　意外にもロダンの顔には満是の色が見えてゐる。健康で余り安逸を む言ほ いεさか 會ったことの無い花子の、些の脂肪をも貯へてゐない、薄い皮膚の底 に、遺度の労働によつて好く発育した、緊張力のある筋肉が、額と腿 の詰まつた、短い顔、あらばに見えてゐる頸、子袋をしない予と腕に 躍動してゐるのが、ロダンには気に入つたのである。 　ロダンの差し伸べた手を、もう大分ヨオロツパ慣れてゐる花子は、 愛相の好い徴笑を顔に見せて握つた。 　回ダンは二人に椅子を侑めた。そして呉行師に、「少し応接所で待 つてゐて下さい」と云った。 　呉行師の出て行った跡で、二人は腰を掛けた。 　ロダンは久保田の前に烟草の箱を開けて出しながら、花子に、「マ ドモアセユの故郷には山がありますか、海がありますか」と云った。 　花子はこんな世渡をする女の常として、いつも人に問はれるときに 〜 ステレオチイブ もぐ，ど ヅ， 話す、極まつた、ω泳民ｇ旨ｏな身の上話がある。丁度あのｓずの ルウル ５胃｛＄で、汽車の中に乗り込んでゐて、足の創の直つた霊聰を話 す小娘の話のやうなものである。度々同じ事を話すので、次第に修行 ルウチイ１ が諸んで、８き巨Φのある小説家の書く文章のやうになつてゐる。口 ダンの不用怠な問は宰にも此腹竈を破つてしまつた。 「山は遠うございます。海はぢき傍にございます。」 　答はロダンの気に入つた。 「度々舟に乗りましたか。」 「乗りました。」 「自分で漕ぎましたか。」 　「まだ小さかつたから、自分で漕いだことはございません。父が沁ぎ ました。」 　ロダンの空想には画が浮かんだ。そして暫く黙つてゐた。ロダンは 黙る人である。 　ロダンは何の過渡もなしに、久保田にかう云った。「マドモアセ具 はわたしの職業を知つてゐるでせう。着物を脱ぐでせうか。」 　久保田は暫く考へた。外の人の為めになら、同国の女を操体にする 取次は無論しない。併しロダンが為めには厭はない。それは何も考へ ることせ要せない。只花子がどう雪ふだらうかと思ったのである。 「兎に角寫して見ませう。」 「どうぞ。」 　久保田は花予にかう雪つた。「少し先生が相談があると云ふのだが ね。先生が世界に又とない彫物師で、人の体を彫る人だといふことは、 お前も知つてゐるだらう。そこで相談があるのだ。一寸操になつて見 せては貰はれまいかと云ってゐるのだ。どうだらう。お前も見る通り、 先生はこんな右爺いさんだ。もう今に七十に間もない右方だ。それに お前の見る通りの真面目なお方だ。どうだらう。」 　かう云って、久保田はぢつと花子の顔を見てゐる。はにかむか、気 取るか、苦情を言ふかと思ふのである。 「わたしなりますわ。」きさくに、さつばりと答へた。 「承諾しました」と、久保田がロダンに告げた。 　ロダンの顔は喜にかゞやいた。そして椅子から起ち上淋つて、紙と チヨオクとを出して、卓の上に置きながら、久保田に言った。「ここ にゐますか。」 「わたくしの職業にも同じ必要に遭遇することはあるのです。併しマ ドモァセユの為めに不愉快でせう。」 「さうですか。十五分か二十分で済みますから、あそこの書籍室へで も行ってゐて下きい。葉巻でも附けて。」ロダンは一方の戸口を指ざ した。 、車灯 「十五分か二十分で済むさうです」と、花子に言って置いて、 は藁巻に火を附けて、教へられた戸の奧に隠れた。 久保固 　久保田の遣入つた、小さい一間は、相関してゐる両側に戸口があつ て、窓は只一つある。その窓の前に粧飾のない卓が一つ置いてある。 窓に向き合った壁と、其両真になつてゐる処とに本箱がある。 　久保田は暫く立つて、本の浄戦の文字を読んでゐた。わざと搬へた ヨ　レクシ　□　ン よりは、偶然集まつたと思はれる８旨９ぎ目である。ロダンは生れ ヲ，−クｔル 附き本好で、少年の時困窮して、寄員邑＄の町をきまよつてゐた時 から、始終本を手にしてゐたといふことである。古い汚れた本の中に は、竃ていろくな記念のある奮あつて、妻くここ一嘉つ て来てゐるのだらう。 　葉巻の灰が崩れさうになつたので、久保田は卓に歩み寄って、灰皿に灰を落した。 　卓の上に置いてある本があるので、なんだらうと思って手に取つて見た。 　向うの窓の方に寄せて置いてある、古い、金縁の本は、聖書かと恩 チ牛ナ　ヨ　’ヂ一７ 呂ヂシーン　ｒ ポ７シ’ つて開けて見ると、であつ ポ　オ　ド　し　呂　ル た。手前の方に斜に置いてある本を取つて見ると、霊婁亭冒守Φが全 集のうちの一巻であつた。 　別に読まうといふ気もなしに、最初のペエジを開けて見ると、おも ちやの形而上学といふ論文がある。何を書いてゐるかと思って、ふいと読み出した。 　ボオドレエルが小さいとき、なんとかいふお嬢さんの所へ連れて行かれた。そのお嬢さんが都星に一ばいおもちやを持つてゐて、どれでも一つやらうと云ったといふ記念から書き出してある。 　子供が括もちやを持つて遊んで、暫くするときつとそれを壊して見 ようとする。その物の背後に何物があるかと思ふ。右もちやが勵くおもちやだと、それを動かす衝動の元を尋ねて見たくなるのである。子 ７イジツタ ’タフイクツク ゆ 供は弔旨嵩直毒より旨ひ冨嘗壱直毒に之くのである。理学より形而上学に之くのである。 僅か四五ぺ一ジの文婁ので、曹乏管れてとうく読んでしまつた。 其時戸をこつく叩く墓して、戸を開いた。一ダンが白轟をのぞけた。 「許して下さい。退屈したでせう。」 「いゝえ、ボオドレェルを読んでゐました」と云ひながら、久保田は為事場に出て来た。 　花子はもうちやんと支度をしてゐる。 　卓の上には＄看冨８が二枚出来てゐる。 「ポオドレェ〃の何を読みましたか。」 「おもちやの形而上学です。」 「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の 上に透き徹つて見える内の烙が面白いのです。」 　久保田が遠慮げにエスキスを見ると、ロダンは云った。「組いから 分かりますまい。」 　暫くして又云った。「マドモアセユは実に美しい体を持つてゐます。 フオツクステ叫＾呂 脂肪は少し墓い。筋肉は；く浮いてゐる。麦§一婁の筋肉 のやうです。腿がしつかりしてゐて太いので、関節の大さが手足の大 さと同じになつてゐます。足一本でいつまでも立つてゐて、も一つの 足を直角に伸ばしてゐられる位、丈夫なのです。丁度地に根を深く卸 チイブ してゐる木のやうなのですね。肩と腰の潤い地中海の“曽①とも違ふ。 腰ばかり潤くて、肩の狭い北ヨオ回ツパのチイプとも違ふ。強さの美 ですね。」 （明治四十三年七月）