古い手帳から 森鴎外 　　　　　Platon 　Platonは何故に共産主義者とせられてゐるか。此人は人の心を植物性、動物性、精神性の三つに分つた。植物性は営養、動物性は感情、精神性は智慧である。此人は又これと併行して社会を労働者、防禦者、思惟者の三つに分つた。労働者は農、工、商である。防禦者（ｔざ晨）は兵である、軍人である。思惟者は哲学者で、同時に政治家である。さて上の思惟者と中の防禦者とのために金銭と婦女とを私畜することを禁ぜょうとした。上中の二階級のために共産主義を要求した のである。 　昔は支那でも宰相が死んで葬をする銭のないのを誉とした。又軍人が銭を愛するのは悪いとした。女色に溺れてはならぬのは上にあるものの務であつた。又印度でも僧尼は独身者で、乞食は浄行であつた。基有数の無配偶者（coelebs）乞食者(mendicans) ・&これに似てゐた。Platonは社会上中の二階級のためにこれを制度化して、妻早財宝の繋縛を脱せしめ、全力を挙げて国家のために尽させょうとしたのである。 　国家のために尽すとはどうするのか。国民をして公正(SiKoaoｑUVTl)を得しむるの謂で、これは臭賦各相殊なるものをして適材の適処に居るに至らしむるに外ならぬのである。国家の幸福はこれより生じて来る。即富国強兵策である。 　そして下の階級たる農工商は総て問題外に置かれてゐる。これが狭義の人民（｀召ｏ’）で、Platonはこれを 敵視すると明言して憚らない。苦にそれのみではない。其下には又奴隷が必要の一団としで存在せしめてある。 　此下の階級の中に今相対時してゐる資本家と労動者とが打して一丸をなして入れてあるのが可笑しい。営々役々として鋼鉄の利を争つて、成功して資本家となつてゐるものも、これを羨望しつつ労動者となつてゐるものも、Platonの日から見れば等しく賤業者(Bocvauaos)である。此に個人主義と民政主義との否定がある。 　Platonの理想国は上中二階級のためには共産主義、下一階級のためには非個人主義、非民政主義を以て組織せられてゐる。概括して言へばPlatonは貴族主義者である、非平等主義者である。 　　　　　Aristoteles 　Platonは人生の幸福を、絶て自己の利害を顕みず に国家のために尽俸する中に求めた。これに反してAristotelesの政論は人生の幸福を、我が有となすものがあつて始て成立すべきものとなした。彼は純利他である。此は自利があつた上の利他である。ここにPlatonの国家集産主義に対するAristotelesの個人主義がある。 　この自利があつた上の利他は何処から出て来るか。Aristotelesはこれを人間天賦の仁(oiAia)に求めた。仁は社会的感情で、ある。そして此感情は人間の平等を待つて始て生ずるものではない。相異なる人と人との間にも亦能く生ずる。そして自利の心はこれに由つて調節せられる。此調節を制度の目的となして、ここに有機物たる国家が成り立つ。 　Platonの国家は上二階級をして全く自利の心を棄てさせょうとしたらのである。此の如き器械的国家は成り立たない。ょしやそれが成り立つだとしても望ま しくない。何故といふに、若し自利の心がないときは人の事業に励みがない。緊張がない。緊張がなくては発展がない。文化が滅びる。 　国家は私産を認め、結婚を認めて、此励み、此緊張を助成しなくてはならない。ここに共産主義が否定せられる。 　私産を認め、結婚を認めると、貧富幸不幸が生ずる。国家の制度は此懸隔が大きくならぬやうに調節して行くべきである。（Politik VII.)ここにAristotelesの社会政策がある。 　Platonの理想国は上二階級が人人皆君子でなくては成り立だない。Aristotelesの国家は凡俗の団体である。しかし凡俗をして小人ょり遠ざかり、君子に近づかしめょうとしてゐる。此向上の動機が即仁である。仁は個人の存続（自利）を抑へて、人類の存続（利他）を揚げようとする自然の手段である。国家は凡俗の国家 であるから、凡俗をして政に参せしめなくてばならない。此時に当つて、君子に近い凡俗は政のために有利で、まだ小人より適ざからない凡俗は政のために不利である。是は已むことを得ない。国家は少数の君子（貴族）に特権を与へず、自恣を敢てせしめないで、同時に又多数の小人をして横暴ならしめざることを努めなくてはならない。珍物（君子）をもありふれた物（小人）をも併せ用ゐて料理の献立は出来るのである。(Politik III.) 　Aristotelesは此政治上公平をして経済上公平と併行せしめょうとした。国家は多数をして適度の富を有せしめなくてはならない。（Politik VII.)国家は個人の需要を超過する蓄財を抑制し、黄金を以て人生の最貴重物とするが如き射利を禁逼すべきである。（Politik I.) 　　　　　Stoa派 Stoa派も亦人間が自己を存続せむと欲する心、自利の心を人生観の発足点とする。自利は人の第一策励(TTpCOTTl 6p|Jiri）である。(Seneca.)人に此心を賦して其程属を存続せし石るのは自然の脆謀である。（AulusGellius)それゆゑに自然は又人にこれを調節すべき共同生活の策励を与へた。種属の利害は主にして、個々の利害は従である。（Ｑｇ「ｏ）人間は自利から発足して利他に到著せざることを得ない。 　此人生観は此派の汎神教と関聯してゐる。万有を支配する唯一の理性は、個々の人にも行きわたフてゐる筈である。哲人は自利のために隠遁しないで、やはり衆人と伍する。小人が利他に入ることが出来なくて、自利を以て終始するのは悪の極である。（のぽ「ｏ） 　Aristotelesの仁は此派に至つて非常に発展した。こ れに温みが加はつて愛になり（２ｇａｓ）、基冊数の基礎を据ゑた。又これに広さが加はつて世界を覆ふに至つた○ 　前には赤詠人の日中に只赤誠人があつだ。印度人が印変人をのみ人（庄忿としたと同じである。支那人が版図外の人を夷秋としたと同じである。然るに歴山大帝の遠征の後に、東方の異民族が赤詠に流れ込んで来た。そしてそれが学問芸術の上に異能を発揮した。汐２派の鼻祖Zenoは来歴不明の人であるが、とにかく東方から来た。赤詠人は始て赤詠人でない人も亦人だと暁つた。そして人を品評するには民族を以て高下すべからず、徳性を以て高下すべし（叩訟ｏ些§急と云つた。仁は世界の愛となつて、ここに国際主義が萌芽した。 　しかし精神的貴族(Seneca)を唯一の貴族なりとし、人間の多数を只形のみ獣に異なりとする(Kleanthes) が如き北派は民政主義に向つては進まなかつた。會に然るのみではない。その理想とする哲人の国は、Pla-tonのそれと同じく、財産と婦女とを私有せしめない国である。貨幣をだに遣らない国である。北国には敵は無い。民族の限界が撤廃せられて、四海同胞であるからである。(Diogenes Laertius）ここにPlatonの高等共産主義が再現した。そしてその中に新に人権(jusgeneris human!)の思想が頭を擾げた。 　世界の愛の国際主義と哲人の国の精神的貴族主義との間には、永遠に填むることの出来ない鈴墾がある。 　　　　　図pikuros 　Epikurosの自利は自己の快適を以て人生の唯一目的とするに在る。しかし共同生活に待つことあるが故に利他を棄てはしない。只其利他は人類を愛する故の行でもなく、人類の存続を欲する故の行でもなく、畢 竟自己の快適を得むがための打算である。国法は個々の人民をして快適を得しめむがための契約で、亦復打算である。それゆゑにEpikurosの社会は功利主義の社会に外ならない。 　此ょり後看護には哲学上に社会を視ることが疎んぜられて、Plotinosは政を論ずるは学者の務でないとさへ云つた。 　　　　　看護及羅馬時代 　社会方面から観れぱ、看護時代は威力を以て労動者を抑圧してゐた時代だといふことは、奴隷の存在を以て証せられる。只思想上に哲学的共産主義が有つたのである。 　民政方面から観れぱ、これに反して看護には、思想上にAristotelesの凡俗政治が説かれ、これと共に事実上に民故国が有つた。 　最初の民政は農夫と牧人との立てたものである。憲 法上には今の璃西の民政に似てゐる。これは奴隷を除 外して云ふものなることは勿論である。雅典市の民政 には三期を劃することが出来る。第一期には男女公民の間に正当に生れた人に参政権があつた。しかし実際 は生計に余裕のあるものが此権を行使した。第二期には奴隷に非るものが皆有権者となつた。生計に余裕のあるものが此権を行使したことは上に同じである。第一期をSolo具594 a. Chr.）からKleisthenes(508)まで、第二期をKleisthenesからAristeides(462)までと算する。此間に波斯戦がある。農業が衰へる。商工業が盛になる。労動者（奴隷を除く）が公民になる。そこで民政が第三期に入つて、Periklesは民会に出るものに始て手当を給した。（台｀）そしてこれまで民会の決議は立法であつたのに、今はすぐに行政になつた。其追は専制に類する。Aristotelesはこれを無憲法だと評 してゐる。（Politik IV.)此時始て職業的政治家(6riua-ycoyos)が出て、嘗て佞臣が暴君に媚びたやうに人民に媚びた。（Politik V.） 　羅馬時代に入つた後も、まだ社会上には奴隷があつて、威力の抑圧がこれに加へられてゐた。しかし奴隷がもはやこれに安んじてゐない。Siciliaの奴隷一揆(142 a. Chr.）は看護' Makedoniaから小亜細亜までも波及した。羅馬は全力を鎮圧に費して二万人を傑刑に処した。（｛Ｓ）尋いでAristonikosがrergamonに起つて、あらゆる階級の撤廃を唱へた。羅馬は此一揆を滅すために手段を選ぶに巡あらず、井を毒するに至つた。其手段は毒瓦斯よりも酷である。尋いでSiciliaの一揆が再挙を謀つて、内証は五年に亘つた。（｝Ｓ）尋いで伊太利本土に力士一揆が起つだ。Paduaの武藤指南所で遊戯に供する力士を奴隷の中から養成してゐたのが一揆の源になつて、智略あるSpartakusを首 仮に戴いたのである。羅馬がこれを平定したとき、羅 馬から吻乱ｇに通ずる本街道だけに傑柱六百を数へたさうである。（コ） 　羅馬時代には事実としての民政は無かつた。所謂羅 馬の共和政は只一面より命ぜられた名で（吻ｏぐにＳ）実は貴族政であり、君主政であつた。（２，iese) 　　　　　Essaioi 　看護人のEssaioi又内印印Ｑμｏ’と称する徒党が猶太に あつた。此名の由来する所は不明である0 Hebraios語から出たとすると、Chaisdim信者を語源としなく てはなるまい。Chaldaios Kgから出たとすると、″恥 療する、asaya医師を語源とすることとなるであらう。 　此党の籍に入るものは私産を挙げて党の金庫に納め る。戦争を忌んで、兵器を造ることを肯ぜない。都会 は罪悪の淵薮なるが故に住まない。商業は貴娑の本な るが故に従事しない。人は人に使役せらるべきものでないとするが故に首領を戴かない。奴隷制度を以て人道に背くものとする。労動を以て人生の義務とする。標識に蔽膝と柄杓とを選んだ所以である。今の語を以て言へば、此党は一種の生産組合である。又類例を以て云へば、天香西田氏詰の唱道する所が、種種の点に於てこれに近似してゐる。 　然ればEssaioiは共産主義者である。しかし肴識哲学の共産が善(KOcAoKocyaSioc)を成さむとする道徳上の手段に過ぎなかつたと同じく、此党の共産は神に仕ヘむがための宗教上の手段に過ぎない。只希識人は口に共産を説いたのみであるのに、此党は身にこれを行つた。彼も此も共産を以て人生の目的とする今の共産主義とは別である。 　Essaioiの思想は源を何所に発したかを知らない。或るひとは希朧最古のPythagorasの説が希識に再興 せられて、それが此思想を生んだといふ。「朋友は 一切の物を共有する」(KOIVOC TOC TCOV 9iAcov）とPytha-gorasは云つたのである。或るひとはStoa派の四海 同胞国の共産から出たといふ。又或るひとは仏教から 来たといふ。若し仏教から来たとすると、西田氏の思 想と同源だといぶことに帰著するだらう。 　EssaioiはJerusalemょり死海の沿岸に及び、Syriaに及び、Palaestinaの全土に潮浸し、五千余人を算し た。基督前百五十年より起つて、基督誕生後に至つて も其跡を絶たなかつた。基督が會に希識哲学の影響を 受けたのみでなく、亦此の党の思想(Essenismus)に影 響せられたことは疑を容れない。 　　　　　猶太希腫の古田制 　古代民族の間に貧富の懸隔を生じたのは、主に権豪 が田地を兼併するがためであつだ。 　猶太の地には初め武力を以てこれを占有した小土豪が割拠してゐた。其間に民業は次第に遊牧より稼稿に移つて、葡萄微視が栽培せられた。織紙、鍛冶、木匠、陶工等は只家庭の需要に応ずるに過ぎなかつだ。既にして商業がKenaanょり伝へられて、権豪がこれに手を下し、富を致した。そこで金銀は国に満ちて、（旧約全書Jesajah II 7.）富者は貧者を揉詞した。（同上Amos IV. 1.) 　農民は負債した。先づ収穫を人手にわたし、次に田地を買入し、又手放した。大地主が出来た。（同上Jesajah V 8.)賄賂が法廷を腐敗せしめた。（同上Amos VI 12:王第二書IV 1: Amos II 6; Tesaiah I21, V 7, X 1.） 　貧者の叫は予言者Jesajahの口を籍りて見せられた。聖王を待つ声は少壮なるJosia王を動かして、｛）cute-ronomionの制が敷かれた。第七日の休暇は今の労動 者の要求に似た制限である。第三年の収穫は挙げて昔人に与へられる。第七年には田地が故主に還され、奴隷が解放せられる。法廷は生計に必須なる物品を差押ふることを得ない。（Ｓ｛″・のぼ・）法はまことに美である。しかしこれを実施せむことは難かつた。そこで後には第七年の田地還主、奴隷解放が第五十年に改められた。所謂Jobel年制(Hebraios gg Jobel金鼓）であ　希腫は早く開けた国で、古来田地は私有であつた。そして親が子に分つ慣習のために個人所有地の面積は次第に小さくなる傾向を有してゐた。又人口過多の結果（前八、七世紀）、地中海沿岸の殖民を見るに至つだ。（前六世紀） 　海上貿易の開けだのは、穀物を輪入せむがためである。富豪が頭を優げて、田地を兼併した。農民が負債して、奴隷にせられた。金相場の升隆は活溌で、金利 は一八％であつた。田地を失つて小作人になつた小農にEKTTllJlOplOlの名があつたのは六分農の義である。収穫の六分の五は地主が取つた。 　此時初め君主故の行はれたAttike(Athen)は貴族故に一変してゐて、実権は大地主の手にあつた。人民の要求する所は田地の割換（班田収授）である。Drakonの法は頗る富人をして譲歩せしめた0 (623 a. Chr.）Solonは中城者(StaAAccKTfis)と称せられたが、中裁（居中調停、労資協商）とは階級闘争の中城を謂つだものである。奴隷を解放する。貨幣を小にする。輸出を禁ずる。（油は此限に在らず。）是が社会政策であつた。(594 a. Chr.）Athenは是より民政の初中後三期に入つた。初期は此よりKleisthenesに至り、（ムｓ）中期はAristeidesに至り、（−ざｗ）後期はPeriklesに至る。（↓Ｓ） 　中戯者Solonは一切の時、一切の所の中戯者の否運 を代表してゐる。上流はその兼併してゐる田地の債券有様を抜き去られたのを債つだ。下流は田地の割換を求めて得ないのを怨んだ。中流は新制度が下流をして我利圏を侵さしめるのを悪んだ。そして新制度が血を流す革命を防いだことを首肯するものは絶て無かつだ。Solonは悄然として亡命した。 　Solon去後のAthenは機に投じて私を営む策士の乎に堕ちた。当時上流を平野人(mSiccKOi)と云つだ。主として大地主ょり成る。中流を沿海人(irdpaXoi)と云つた。商工より成る。下流を山岳人(Sidxpioi)と云つだ。農ょり成る。此下流を使咳してPeisistratosは起つた。陽に昔人の身方富人の敵と称してSolonの法の輪廓を保存しつつ、専制の政を行つたのである。（まｏＰのぼ・）Kleisthenesは此人の死後に選挙権を拡張して民政主義の歩を進めた。（初中期の限界）後Perikles(後期末）に至つて、民政主義は盛を極めた。 Platonの理想国は民政の下に疲れた智識階級の夢である。 　Periklesの後六十五年AthenはChaironeiaの戦に敗れ' (338)後又十六年Antipaterの下に選挙資格を定むるに資産額を以てし、議員の手当を廃し、民政は此に滅びた。 　支那の班田は猶太の七年還主制に先だつこと五百年以上（基督前十二世紀以上）である。（周礼、孟子）しかし当時田地の割換が行はれたと云ふのは、（何休公羊伝註、三年一換主易居の類）後人の説である。田地の割換は希腫に於て要求せられたが、（前七世紀）行はれなかつた。これを行つたのは此ょり後千二百余年の日本である。（大化二年の第六年班田収授） 　　　　　基　　督 　基督は資産家の身方ではなかつだ。例之ぱこんな語 がある。「爾欲完全、往悟所有、以済散、則必有財於天、且来従我。我誠告爾、富人人天国、嬌笑哉。我又語爾、駝穿針孔、較富人入神之国、尤易也。」（新約、馬大、 XIX 21, 23, 24.)「侍財者入神之国、嬌笑哉。駝穿針 孔、較富者入神之国、尤賜也。」（馬可' X 23, 24, 25.)又こんな話がある。「費老視笑、以神之国乃爾所有也。爾今餓者福笑、以爾将得飽也。爾今哭者福笑、以南将 得笑也。」（路加、VI 20, 21.) 　貧は道を助長し、富は道を妨擬する。基督は富の厭 離すべきを言つた。しかし富の廃滅すべきを言はなか つた。そして貧者を慰薙するに彼岸に於ける代償を以 てした。 　基督は富人の散人を虐待する世に生れた。そして猶 大人の既に神の民たる思想を狭しとし、希康人羅馬人 の既に其郷国主義を小なりとするを見た。是が基督の 其宗教を世界的平等観の上に建立した所以である。 　基督が社会思想史上に重要なる地位を占めてゐることは明かである。しかしその富に対する反抗は手段であつて目的ではない。又基督が共産主義を説いたといふ証拠は一も存在しない。 　　　　使徒波師父 　共産主義の文は使徒行伝に二箇所あつて人の皆知る所である。其一はかうである。「信者皆会同、公用諸物、凡爾産業、依各人之所乏、而分与之。」（｛コ洲＆・）信者とはPetrus会下の以色列人である。其二はかうである。「信者之衆、一心一志、無有私己財者、乃公用諸物。使徒以大能、証主耶蘇之後生、皆獲大恩焉。其中無窮乏者、蓋有田宅者、悟而掌共金、置使徒足前、 　　　　　　　　—　—− 依各人所需而分之。有利末族人、生於居比路、名約西。使徒称之為ピ拿ピ、訳即勧慰子也。有田倍之、翠其金、置使徒足前。」ヨご？≒・）利末族は.Levites.居比路は ivypros,約西はloses,巴拿巴はBarnabasである。前世紀に北米ｏneida河畔に占居したJohn HumphreyiNoyesの共産宗団は此文を実現せむと欲したらのである。 　使徒より降つて師父patres ecclesiaeに至れば言論の激烈なるものが頗多い。tiieronymusは云つだ。 　「過剰財産は社会の物を盗んだらのである。若し現在の持主が盗まなかつたら、其祖先が盗んだのである。」Clemensは云つだ。「若し世間が正しかつたら私有財産は無からう。一切の人に属するであらう。私有財産は不平等の本である°j Basiliusは云つた。「富人は賊徒である。」Cnrysostomusは云つた。「富人は盗であ．る。富人の物を取つて貧人に与へ、或程度の資産の均　一を得る方法がありさうなものである。最善の法が共産なることは論を持たない°j Nyssaのtjrregorは云つだ。「我等は血統と天賦との縁によつて兄弟たるもの であるから、若し資産を均一にすることを得たら、それは今より善く又今より正しいであらう。」ｙヨぼｏ‐器Ｓは云つた。「自然の命ずる所は共産である。私有財産は横奪である。」 　記載は此の如くであるが、使徒行伝の文には旁証が無い。若し共産団があつたとしても、それは範囲の狭い、継続の短いものではなかつたか。師父等の言論は唯主張のみなることが語気の間に見れてゐる。 　Renan　一派が基督と使徒とを共産主義の宜伝者兼実行者であつたとするのは、歴史上の根拠に乏しい。 　　　　　Karpokrates 　基督教の師父に一人の奇僻なるものがあつだ。それはAlexandria生れの人で、第二世紀の前半にKephal-leniaの寺院に住んだKarpokratesである。 　素と宗教を説くに理を以てせむとするgnosticaの 流派に属してゐたが、推理上より、「基督は人である、未来世に於ては基督ょり大なる人があつて出て来るかも知れない」と云ふに至つた。又「霊魂が肉体と結合するのは快楽を得むがためである」とも云つた。 　Karpokratesは此の如き思索の傾向から進んで、遂に財産と婦女との共有を主張した。概ね基督散の師父は財産の共有を以て望ましい事としてゐたが、婦女の共有を以て不徳なりとし、これを勧説したPlatonを排斥するを例としてゐた。然るに今婚姻を廃すること、私有財産を廃することが師父の口から唱へ出されたのである。 　Karpokratesは口にこれを説くに止まらず、これを実世間に適用しょうとして、一の秘密社を創立した。後に其子Epiphanesが社長になつだ。入社するには財産をも妻をも共有にしなくてはならなかつた。男女の信徒が夜間燈を滅して会合したと云ふ記録 (Clemens Alexandrinus III 2)があるが、真偽不明である。 　Karpokratesは基冊数界に於ける殆唯一の旗幟鮮明なる共産主義者で、其思想は共産的無政府主義を以て目すべきである。しかし此人は此の如き思想を有すると同時に、基冊数の圏外に逸出して、破戒無塹の人としで数界の歯せざる所となつた。 　此より後欧洲の基督救国は久しく「神の国」と云ふ想像の下に項を屈してゐた。羅馬の帝王主義が滅びて、猶太の神政（Theokratie)が基督款中に復活し来つたのである。「神の国」が理想境であると共に、現実世界は初ょり悪魔の所生であるから、其間には社会方面に対する哲学を容るべき余地が無い。 　　　　　Augustinus　　　　ノ 　中世の神の国と云ふ思想は四五世紀の間に出たｙロー relius Augustinusの書De civitate Deiflibri XXII)をして代表せしめることが出来る。 　人間の住してゐる世俗の国civitas terrennaは人欲の私に本づいて立てられてゐる。即ち罪悪の造る所である。（後に法皇Gregor VIIの如きは一歩を進めて悪魔の造る所と云つだ。）其中にあつて声望のある人は「光ある罪」（世間の徳）の人である。此の如き国は必然滅亡しなくてはならない。 　社会問題は資本家も労勤者も皆人欲を主張するより起る。世俗の国の尋常の顕象として視るべきである。」要するに皆無用の争である。 　世俗の国を超越して神の国civitas Deiが存在する。北国は神の愛に本づいてゐる。然らば神の国は全く世俗の国と交渉がないかといふに、さうではない。人類の善良なる心は神の国に向ひ近づかむことを希ふ。Augustinusはこれを徒労でないと考へた。人類は累 世の発展(excursus)を以て神の国に接近する。是は人類の進化を承認したもので、近世に至つて歴史哲学の萌芽として著目せられた。　　八 　　　　　Karl der Grosse 　神の国の思想は実用方面に於て羅馬寺院の権威の由つて立つ所となつた。法皇の「基督共和国」(republicaChristiana)は神の国を目前に現ずるものと視られるのである。そして現在の国家は只其存在を認容せられる。有るが故に有らしめる。始より無きには若かない。羅馬の日ょり見れば、国家は悪人を制駁するために設けてある牢獄の如くである。 　これに反抗して起つたのがKarl大帝の世界の王国である。国王はさながらに司祭である。（聖欲得寺戴冠式）国民の宗教行為は法令の中に編入せられた。是は宗教の力を王権の下に屈せむと謀つたらのである。 　宗数的共産主義者の小さい集団は四世紀に北阿弗利 加に孤立してゐたが、（Donatismus）加特力戦の成立 と倶に衰亡した。 未来に「千年の神の国」が実現せられるといぶ思想 (Chiliasmus)は、若干の小集団があつて久しくこれを 護持してゐた。そして宗数的共産主義者が去つてこれ に投じた。しかし寺院は所謂「千年の神の国」は聖書 の基脊復活を以て実現したものだとした。（約翰伝 XX)未来を過去に移したのである。此等の小集団も 漸く衰亡した。